XR映画とは何か?『Beyond the Frame Festival』で体験する未来の映像表現

XR映画とは何か?『Beyond the Frame Festival』で体験する未来の映像表現

VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)技術を駆使したXR映画が、従来の映画の概念を根底から覆そうとしている。観客を物語の中心に置き、全感覚で作品を体験する新たな表現形式。その最前線を体感できるのが『Beyond the Frame Festival(以下、『BTFF』)』だ。

今年で5回目を迎える本フェスティバルは、単なる映画の進化にとどまらない、エンターテインメントの未来を提示する。映画の常識を塗り替える挑戦について、『BTFF』フェスティバルディレクターの待場勝利にインタビュー。

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2024年の『Beyond the Frame Festival』のトレイラー

『Beyond the Frame Festival』の誕生まで。国際映画祭で受けたXR映画の刺激

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——『BTFF』の成り立ちについて教えてください。

待場勝利(以下、待場):『BTFF』を設立したきっかけは、「XR元年」と呼ばれた2016年まで遡ります。当時、私は映画業界からサムスン電子ジャパンに移り、「GearVR」という携帯電話を使ったVRのデバイスを担当していました。これが私とXRの出会いになります。

当時、XRは主にゲームとして認識されており、映画のような作品をXRで制作する人はほとんどいませんでした。しかし、映画業界での経験や、初めて体験したFelix & Paul Studiosによるシルク・ドゥ・ソレイユのXR作品『Zarkana(ザルカナ)』との出会いが、私にとってXRで映画をつくるきっかけとなりました。

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待場勝利Beyond the Frame Festivalフェスティバルディレクター/CinemaLeapエグゼクティブプロデューサー。XRコンテンツのプロデューサー兼ディレクター。

——どのような作品ですか?

待場:『ザルカナ』は単純にシルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマンスをVRカメラで撮影したものではありません。ステージ上のパフォーマンスを一度解体し、VRに最適なかたちで再構築した作品です。

この作品を初めて体験したとき、これまでの映像作品のあり方を変えるかもしれないと衝撃を受けました。それ以来、XRの研究を重ねながら、日本国内でさまざまな実験的なXR映像作品を手がけるようになりました。

——とくに印象に残っている作品を教えてください。

待場:印象的だったのが円谷プロダクションさんと一緒に制作した『ウルトラマンゼロVR』です。この作品は日本の特撮技術とXRを融合させたもので、これまでにないXR映画作品として国内外の多くの映画祭に招待されました。なかでも『カンヌ国際映画祭』や『釜山国際映画祭』では多くのXR関係者に出会うことができました。

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『ウルトラマンゼロVR』

——関係者との出会いは刺激になりましたか?

待場:彼らとともにXR業界をどのようにつくっていくか議論を重ねました。海外では、XR部門を設けた映画祭が立ち上がり、多くのXRクリエイターを輩出する一方で、日本ではその環境が整わず、世界に通用するXRクリエイターがなかなか育っていない現状がありました。特に日本で足りていないてと感じたのは、XR作品に触れる機会が非常に少ないということでした。

——まずはXR作品を知ってもらう機会が必要だと。

待場:はい、そこで、『VR映画ガイド』(現在は『XR映画ガイド』)という記事を連載し、世界中のXR作品を紹介しました。また、XR作品に触れる機会を提供するために、CinemaleapというXRのクリエイティブカンパニーの大橋哲也代表と「いつかXRの映画祭を開催しよう」とチャンスをうかがっていました。

そして2021年2月、文化庁委託事業「⽂化芸術収益強化事業」の支援を受け、コロナ禍のなかで、第1回目のXR国際映画祭『BTFF』を開催することができました。

——XR映画が浸透しにくかったことについて、作品に触れる機会の少なさのほかにはなにか理由がありますでしょうか?

待場:「映画」という表現を使ってしまうことで、「椅子に座り、スクリーンで何かを見る」という固定観念が生まれ、日本におけるXR映画の表現の可能性にブレーキをかけてしまっているのではないかと、考えています。

私自身、早い段階から「XR映画」と呼んで、XRを使った映画的な表現に挑戦してきました。しかし、最近では、従来の映画とXR映画の表現はまったく違うものだと実感するようになりました。

私は、XRという呼称をVRやAR、 MR(Mixed Reality)といった技術の総称として使っていますが、それぞれはまったく異なる特徴を持った技術です。VRだけを見ても、ヘッドトラッキングやアイトラッキング、ハンドトラッキングなど多くの技術が詰め込まれています。

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XR映画はPC-VRシステム「VIVE Pro」を使って体験する(写真提供:待場)

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——たしかに、さまざまな技術を駆使して表現するXR映画は従来の映画とは違うかもしれません。

待場:ある方がXRで作品をつくことは「宇宙開発」に似ているとおっしゃっていました。宇宙開発の技術は、もちろん宇宙で使うために開発されますが、その過程で生まれた技術が地球上でも応用されています。同じように、XR作品からも実世界のさまざまなシーンで使える先端技術が誕生するのではないか、という考えです。

——XR映画も、映画だけでなく、実際の生活にも応用できるのではないか、と感じていると?

待場:もちろんです。当初世界の映画祭は「映画の新しいかたち」や「映画の新しい可能性」としてXRを取り上げてきました。これまでの映画が、映画館のスクリーンを使って、新たな世界を見せてきたように、XR映画もデバイスを通じて、新たな世界を見せていくのだと思います。そういう意味では「XR映画」は既存の映画の進化系と言えるかもしれません。

しかしXR映画は、視覚や聴覚にとどまらず、さまざまな感覚を使った新しい表現方法へと進化していることにも注目すべきだと感じています。

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本フェスティバルで上映される『Ito Meikyu』(写真提供:待場)

『Beyond the Frame Festival 2024』の見どころは?

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——『BTFF』は今年で5回目を迎えますが、注目すべきポイントを教えてください。

待場:年々、応募作品が増えており、国内外の注目度も高まってきていることを実感しています。今回フェスティバルディレクターとして、2024年の『BTFF』で注目してほしい3つの点をお伝えしたいと思います。

1つ目は、アジア各国の映画祭とアライアンスを組んだ新プロジェクト『XR Festival Asia』の始動です。このプロジェクトでは、アジア各国から選出されたクリエイターがXR作品を制作し、国際的な協力のもと新たな表現を追求します。

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2024年の『Beyond the Frame Festival』ノミネート作品

待場:2つ目は、豪華審査員陣です。32年にわたって多くのコンテンツを生み出し、2024年3月に新たなファンド「スタートアップファクトリー」を立ち上げた鈴木おさむ氏、WOWOWのなかで新しいエンターテインメントを追求する、「WOWOW Lab」チーフプロデューサー・藤岡寛子氏、そしてベネチア国際映画祭のXR部門を創設したキュレーター、ミシェル・レイヤック氏を審査員として迎えます。

3つ目は、XR作品の進化です。年々、応募作品が増えており、今年は世界20カ国以上の国から応募がありました。とくに注目されるのは、MRとマルチプレイ作品の増加です。MRは、VRの仮想空間とARの実空間を融合させ、実際には存在しないものを体験させる技術です。

——具体的にどのような点がほかの技術と異なるのでしょうか?

待場:これまで、VR、ARはそれぞれの専用デバイスで体験されてきましたが、今年はMRの技術と演出が進化し、現実と仮想空間を自然に行き来することができるようになっています。MRがXRの最終形態となる可能性があると感じています。

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また、マルチプレイ作品は、複数人が同じ空間で同時に体験を共有できるという点で新たな挑戦です。これまでは1人ずつの体験が主流だったため、大勢の人に提供することが難しかったのですが、マルチプレイによって体験者数が大幅に増加し、収益性の向上というXR映画の一番の課題をクリアできる可能性もあります。今後、マルチプレイ作品の増加も期待されていますので、ぜひ注目してください。

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本フェスティバルで上映される『The Assembly』(写真提供:待場)

——『BTFF』に来場される方々にメッセージをお願いします。

待場:XR映画は、 従来の映画とは異なり、能動的に楽しむ作品です。従来の映画のように、ただ椅子に座って、スクリーンを見ているだけでストーリーが進むというものではありません。XR映画を楽しむためには、クリエイターが表現する世界観やさまざまなサインを見逃さず、積極的にその物語に飛び込む必要があります。

たとえば、シーンが変わるたびに必ず360度空間を見渡してみましょう。目の前にドアがあれば、それを開けてみてください。ドアを開けたときに新たな物語世界が始まるかもしれません。

——最後に「Gemini Laboratory」とのコラボやデジタルツインの技術について感じていることを教えてください。

待場:デジタルツインはXRにおいて新たな可能性の一つだと感じています。まだ現時点では、そこまで人間の創造力や技術力が及んでいないかもしれませんが、デジタルツインとは、実在するものをデジタル技術を使って表現することだと理解しています。

それでは、「実在するもの」とは一体なんなのか。そもそも人間はすべてのものを同じように認知しているのでしょうか。表現することで、逆にイメージが固定化されてしまう可能性もあるかもしれません。

昨年、『Sen』(監督:伊東ケイスケ)という作品をプロデュースした際に気づいたことは、実在しない創造物をデジタル上に表現することもある意味では「デジタルツイン」と呼ぶことができるのではないかということでした。従来の映画でも、実際にはまだ存在しないものや事象を題材にした作品が多くつくられてきました。 

——なるほど。

人間の創造力を再現した結果、現在があるのならば、デジタルを使って再現することにはどのような意味があるのか。この問いを「Gemini Laboratory」で議論したいです。デジタルツインとは単なる補完的な手段なのでしょうか。

私はXR映画という表現方法を使って、先端技術と人の創造力をデジタル上で融合させています。最近の映画祭では、その世界観をXRのデバイス内だけでなく、会場のリアルなブースでも表現することが増えています。

また、MR技術や演出の進化により、現実とデジタルの境界が次第に曖昧になりつつあります。現実とデジタルが融合したとき、デジタルツインの本当の意味が見えてくる気がしています。夢や空想が技術によって現実になった瞬間、これまでの概念にないまったく新しい存在や表現が誕生するかもしれません。その未知の存在を、「Gemini Laboratory」と見つけてみたいと思っています。