エシカルファッションとは?注目すべき3ブランドと、サステナブルなスタイルの実践方法

環境保護や社会的責任への関心は、企業だけではなく消費者のあいだでも高まっている。アパレル業界も例外ではなく「エシカルファッション」と呼ばれる概念が近年、急速に広がっており、多くの企業がさまざまな取り組みを実践している。この新しい潮流は従来のファッション産業の見直しや変革を促しているが、その背景と今後の展望はどのようなものなのだろうか。
エシカルファッションとは?
エシカルファッションとは、持続可能な社会の実現を目指す、文字通りエシカルな(倫理的な)ファッションの総称。類似した概念として「サステナブルファッション」という言葉もあるが、エシカルファッションはより広い意味を持ち、環境への配慮だけでなく、社会や人権にも焦点を当てている。国際連合(国連)が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」のなかでも特に「人や国の不平等の解消(目標10)」「つくる責任 つかう責任(目標12)」「気候変動対策(目標13)」に対して多くのブランドが取り組んでいる。
エシカルファッションの8つの定義
ほかにもエシカルファッションは多くの領域にまたがり、イギリスを拠点とするエシカルファッション推進団体「Ethical Fashion Forum」が運営するファッションコミュニティ「Common Objective」では、以下の8つの分野が定義されている(※)。
1.環境保護
製品や製造プロセスにおいて、低負荷かつ低汚染となるようなエネルギー源の最適化、水の汚染や浪費の防止、有害な化学物質の削減などをどのように行なっているのか。
2.リサイクルと廃棄
廃棄物の削減やリサイクル、アップサイクルを行なえているか。そしてそれらを事前に計画した上で製品を設計する循環型アプローチの採用ができているか。
3.環境に優しい素材
オーガニック素材のほか、リサイクル素材や代替素材など、環境に配慮した素材を使用しているか。
4.フェアトレード
国際貿易の公平性を向上させ、生産者や労働者の安全保障、経済的自給自足ができるように行動しているか。
5.適正な労働環境
企業やサプライヤーの労働者が尊厳をもって働き、良好な生活を行えるよう、賃金や労働時間、安全衛生、社会的保護などの観点から対応できているか。
6.伝統的な技術の支援
職人や伝統的な技術をどのように奨励し、支援するのか。
7.倫理的なサプライチェーンマネジメント
適正な労働条件の実現や環境への悪影響を最小限に抑えるために、社会的・環境的基準に則ってサプライヤーの選定や取引を行えているか。
8.動物への配慮
動物由来の原料の使用を避けているか。また、使用する場合であっても適正な動物飼育を保証するための行動は取れているか。
※Common Objectiveの公式サイトより
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エシカルファッションの歴史——1970年代から現在まで
近年特に注目を集めているエシカルファッションだが、その起源は意外と古く、1970年代までさかのぼる。フランスのファッションデザイナー、アニエス・ベーらはチャリティー活動など、倫理的な取り組みに力を注いでいた。小規模な活動から始まったが、徐々に広がり、2004年にはパリでエシカルファッションショーが開催されたり、2006年には「Ethical Fashion Forum」が設立されたりするなど、企業やブランドを横断した活動体が生まれていった。2000年代まではヨーロッパを中心に成長していたエシカルファッションだが、2013年にバングラデシュで起きたファッション史上最悪の事故とも呼ばれる「ラナ・プラザ崩落事故」をきっかけに、世界的にその必要性が叫ばれるようになる。数多くのファッションブランドの縫製工場が入っていたこの商業ビルの崩落は、死者1100人以上、負傷者2500人以上を出し、労働者を低賃金かつ劣悪な環境で働かせてきたファッション業界の問題を浮き彫りにした。その後複数ブランドの大量廃棄問題が発覚したことなども相まって、企業のみならず消費者もエシカルファッションの重要性をより強く感じるようになっていった。
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エシカルファッションの現在地——新素材やデジタル技術の浸透
エシカルファッションの重要性が増すなか、さまざまな分野で技術革新が進んでいる。とくに注目を集めているのが素材開発で、多くのスタートアップ企業が次々と誕生し、投資も活発化している。再生ポリエステルや植物由来の素材、バイオテクノロジーを活用した素材など、次々と新しい素材の開発が進む。デジタル技術の進化により、3Dプリント技術やAIを活用した新しい製造方法が生まれ、生産効率の向上と廃棄物の削減も進んでいる。また、消費者は購入した製品の製造地、製造方法などの情報をより容易に受け取れるようにもなっている。
ファッション業界が注力する、サーキュラーエコノミーとトレーサビリティ
こうした技術革新により、エシカルファッションにおいては特にサーキュラーエコノミー(循環型経済)やトレーサビリティが重視されている。
サーキュラーエコノミーとは?
サーキュラーエコノミーとは「つくり、売り、消費して、再利用に回す」という考え方であり、従来の「つくり、売り、着て、捨てる」という考え方からの転換ともいえる。2022年にはフランスで循環型経済のための廃棄物対策法が繊維製品にも適用され、売れ残った衣服の廃棄が禁止されるなど、行政レベルでの取り組みも始まっている。衣服のリサイクルを推進する仕組みづくりや再生可能な素材を用いた服づくりといったことがさらに重要になるだろう。
トレーサビリティとは?
トレーサビリティとは、ものづくりの姿勢や、製品がいつどこでつくられたかという生産プロセスを可視化するといったトレーサビリティの潮流においては、SNSの発展などによりブランド側も発信が容易になったことに加え、消費者側の関心の高まりも背景にあることから、今後はブランドの付加価値にもなりうる領域としてより重視されていく可能性が高い。
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エシカルファッションをリードする3つのブランド
パタゴニア
多くのブランドがエシカルファッションに関する取り組みを行なっているが、古くからリードしてきた企業の1つに「パタゴニア(Patagonia)」がある。1973年に創業し、現在は「故郷である地球を救う」というパーパスを掲げている同社は環境に配慮した素材を用いた製品開発だけでなく、中古製品の再販やリサイクルを行なう「Worn Wear」プロジェクトや企業や個人の収益の1パーセントを自然保護に寄付するグローバルネットワーク「1% for the planet」の設立など、数多くの環境保全活動を行なってきた。2022年には創業一族であるシュイナード家が保有する株式を新たに設立した非営利団体に譲渡。パタゴニアの将来の利益を気候変動対策に充てると宣言している(※1)。
※1:WWD JAPAN「『パタゴニア』の製品開発責任者が語った『地球に責任を持つ』モノ作りの実践と葛藤」よりhttps://peatix.com/user/13436362/view
Worn WearのInstagramより
ケリング
ラグジュアリーブランドも例外ではない。たとえば「グッチ(GUCCI)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」などを傘下に持つケリングは、使用電力の100%再生可能エネルギー化やトレーサビリティの95%確保、環境負荷の40%削減など、数多くの目標を打ち立て、達成してきた(※2)。なかでも「グッチ」は、環境への影響に配慮してデザインされたコレクション「GUCCI OFF THE GRID」や人と地球のためにポジティブな変化をもたらすことを目指すプロジェクト「GUCCI EQUIBRIUM」などの活動を通じて一定の評価を得ている。
※2:ELLE「『ケリング』が進めるサステナブルファッション実現への道」より
GUCCI EQUIBRIUMのInstagramより
CFCL
日本ブランドでは、再生素材をベースに、ゴミが出ないコンピューター・プログラミングニット技術で服づくりを行なう「CFCL」がエシカル領域における先進的なブランドとして注目されている。同ブランドは2022年に環境や社会に配慮した事業活動を行なう企業に与えられる国際的認証制度「Bコーポレーション認証」を国内のアパレル企業として初取得。世界基準の透明性、人権にも環境にも配慮した服づくりを目指している。
CFCLのInstagramより
エシカルファッションが向かうべき道
エシカルファッションは単なるトレンドではなく、ファッション業界の持続可能な未来を築くための重要なステップとなるが、いくつかの課題もある。その1つが価格の問題だ。持続可能な素材や製造プロセスは、現時点では従来よりもコストが高くなる傾向にあり、結果的に消費者にとって高価になってしまうことが多い。そのため、消費者が高価格帯でも購入したくなるようなブランド戦略や、コストを抑える技術革新が求められるだろう。また、消費者への意識づけもより大切になる。消費者のエシカルに対する意識は徐々に高まってはいるものの、理解が不足している点もある。企業独自の取り組みや企業と教育機関の連携などによって、エシカルファッションの啓蒙活動をより強化していく必要性が出てくるだろう。環境問題や人権問題が顕在化してきており、多くの人々が危機感を持ち始めた現代。今後さらに課題が出てくる可能性もあるなかで、日々の生活の一部を占めるファッションには持続可能性が求められており、エシカル性もより重要性を増していく。エシカルファッションがより浸透していくためには、企業と消費者、ひいては社会全体の協力が不可欠となるだろう。
Co-Created by
石塚振
編集者、ライター 1992年生まれ。2016年〜2021年まで、ファッション週刊紙「WWD JAPAN」にて、記者として雑誌・メディア業界とデジタル領域(EC、ファッションテックなど)を中心に取材。2021年に退社。現在はメーカー企業でマーケティング業務に従事しつつ、フリーランスで編集者・ライターとしても活動中。