「未来」を写す写真家リアム・ウォン:今後のデザイン業界に期待する2つのこと

テクノロジー、クリエイティビティ、ヒューマン・インタラクションの融合で未来を描く
第1回GEMINI Laboratory Global Design Awardsの審査員として、ディレクター、ゲームデザイナー、写真家として著名なリアム・ウォンが、デザインの未来と自身の興味関心を惹きつけるプロジェクトについての洞察を語る。フォーブス誌の世界を変える「30歳未満の30人」に選ばれ、『ファークライ』シリーズのような大ヒットゲームの製作にも携わるウォン。仮想世界(バーチャル)と物理世界(フィジカル)の融合から生まれる斬新なアイデアに注目したこのアワードにおける彼ならではのユニークな視点とはどのようなものだろうか。
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近未来的ビジョンと芸術的追求
テクノロジー、クリエイティビティ、ヒューマンインタラクションが融合するもの…それが彼の興味関心をかきたてるプロジェクトだ。特に視覚的に強いイデンティティを持つ作品に魅力を感じる。コンセプト・アーティストのシド・ミードや建築家のザハ・ハディッドの画期的なデザインがインスピレーションの源だ。「彼らはともに、時代を超えてものを見る才能を持ち、デザインとテクノロジーが融合して新たな可能性を創出する未来をイメージできていた」とウォンは語る。
自らの感性を高めるため、ウォンはさまざまなジャンルの媒体に触れるように心がけている。「作品のストーリーを構築する際に重要なのは、自分が影響を受けたものを把握すること、そしてそれらの組み合わせがどのように有機的で確かなものを生み出すかを理解することだと思います」と彼は説明する。このアプローチによって、彼は自分の心に深く響くものと、強く反発するものを見極めている。そして、アーティストとして成功するためには、その両方が不可欠だと彼は考えている。
イマーシブ・エクスペリエンスのためのバーチャルとリアルの融合
GEMINI Laboratoryによりリリースされた「Altfield」はバーチャルとフィジカル両方の要素の情報収集ができるデータライブラリ。ウォンはこのコンセプトに大きな可能性を感じている。ゲーム開発者であるウォンは、魅力的なバーチャル空間を構築するために現実世界からインスピレーションを得ることの重要性を指摘する。「ゲームの開発では、プレイヤーが探検したくなるようなバーチャル世界を構築するため、現実世界にインスピレーションを求めることが必要不可欠です。Altfieldで提供されるハイブリッドなアプローチは、今後、こういった作業を容易にし、バーチャルとリアルのギャップを埋めるのに役立つと思います」と彼は説明する。
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Kawasaki, inspired by the video game Final Fantasy VII
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ビデオゲーム『ミラーズエッジ』にインスパイアされた東京
移動が制限されていたパンデミックの間、ウォンは歌舞伎町や尾道を描いた『龍が如く』シリーズのような、現実の場所を忠実に再現したビデオゲームに没頭していた。こうした仮想空間の体験は、本当にその場所に行ったかのような気分にさせてくれた。彼自身の写真作品は、こうしたバーチャルとリアルの融合へのオマージュが多くみられる。「例えば『ファイナルファンタジー』に登場する架空の都市ミッドガルのモデルになったと言われる川崎のコンビナートや、『ミラーズエッジ』を彷彿とさせる東京の景色、『ペルソナ』や『ジェットセットラジオ』のモデルとなった場所を撮影した写真もある。このように、実在する場所がある特定の方法で描写されるとまさにビデオゲームの世界のように見えます。私は作品を通じてそれを人びとに気づかせるのが好きなのです」。
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Kabukicho After Dark
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Kamurocho After Dark (ゲーム『龍が如く』シリーズ内)(https://x.com/liamwong/status/1250820348058222594?s=20)
今後のデザイン業界においてウォンが期待しているのは、フォトグラメトリの発展と、そのバーチャル空間のリアリティを高める可能性だ。彼は、この技術を使って、現在はすでに取り壊されている中銀カプセルタワービルのような象徴的な建築物をデジタル領域で残すことを考えている。バーチャルで現実の建築物を保存していくことの重要性は、中銀カプセルタワーを考えれば明らかだ。「アーカイブされ、バーチャルに存在することは、私たちが現実に目にすることに最も近い。この象徴的な建造物がもう現存しないのは、非常に残念なことだと感じています」とウォンは説明し、デジタルの手段で建築遺産を保存することの意義を強調している。
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受賞クリエイターに求められること
GEMINI Laboratory GLOBAL DESIGN AWARDSの審査員として、ウォンは新たな技術への熱意、イノベーションとオリジナリティの融合を表現する作品を期待している。「私は、クリエイターの才能だけでなく、技術へのこだわりを感じさせる作品を見てみたいと思っています。重要な点は、芸術的に熟考された結果生まれるイノベーションとオリジナリティです。また同様に、応募者の熱意と、それがどのように作品に表れているかも重要だ」と説明する。
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クリエイター志望者におすすめのリソース
バーチャル世界の構築や近未来的なデザインの領域を追求したいクリエイター向けに、ウォンは数冊の本を薦めている:『Videogame Atlas:Mapping Interactive Worlds』(ルーク・キャスパー・ピアソン、サンドラ・ユーカナ著)、 『The Movie Art of Syd Mead』(シド・ミード著)『Project UrBex』(中村育美著)、『Anime Architecture』(ステファン・リーケレス著)、『Tokyo Nobody』(中野正貴著)など。また、映画監督小津安二郎への視覚的オマージュとして、小津が描いた1953年の東京と1980年代の東京のコントラストを表現するヴィム・ヴェンダースの映画『東京画』も提案している。
今回開催されるGEMINI Laboratory GLOBAL DESIGN AWARDSは、デザインの世界において画期的なマイルストーンとなるもので、リアム・ウォンのユニークな視点は、今後の展開を予感させるものである。彼の視点は、バーチャルとリアルの架け橋となる革新的なデザインを紹介するという本アワードのミッションに完全にマッチしている。ウォンは、その優れた見識と先進的なアプローチによって、アートとテクノロジーの境界を再定義するイノベーターを発掘する重要な役割を担っている。
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Volume: Project UrbEx